キンピラゴボウに罪はない。

夕飯のためにご飯を炊いて、味噌汁を作り、ゴボウとニンジンできんぴらにするつもりだった。

ゴボウの皮を包丁の背でそいで、三等分してから細く刻もうとした。そのとき、包丁がゴボウの堅さに弾かれるように滑って小指に直撃した。

力をいれていたものだから、指の先っぽに包丁があたり、皮に食い込む感触が右手に残った。あっ、と思った瞬間血が噴き出してきた。

薄くそいだくらいならじんわり滲む程度だが、すっぱりいってしまったので驚くくらいの血が出てきた。

アワアワしながら小指をくわえて洗面所に向かった。あっという間に口の中は血でいっぱいになってしまう。かといって外に出すと洗面所がたいへんなことになる。

妻にバンドエイドを持ってきてもらったが何の役にもたたない。根元から包帯でぐるぐる巻きにして止血することにした。

さて、血は止まったが、尋常じゃないくらいズキンズキンする。切ったんじゃなくて、削いでしまったから病院で縫ってもらうこともできない。かといってこのままほっておくわけにもいかず、阿佐ヶ谷の救急病院に行くことにした。

時間外診察の入り口から受付へ。「どうなさいました」と聞かれて「いや、ちょっと包丁で小指を、、、」

周りは急患や事故の搬送であわただしい。そこへ「小指が」というのはばつが悪い。

とりあえず看護師さんが包帯を外して患部をみてくれた。幅5センチ厚み3センチ以上あるぶ厚いガーゼを巻いてくれて、順番を待つことになった。

その手を何気なく膝の上に置いていた。すると何か足がモヤモヤしてくる。ふと下をみたらガーゼが全面真っ赤になっていて染み出していたのだ。あわてて左手を頭の上に上げる。

もう痛みは感じなくなっていた。それどころかいい気持になってきた。肩こりも朝からシクシクしていた頭痛も消えている。すべてのことが左手の小指の先に集中しているようだ。

結局縫うこともなく、止血をしてもらい指を包帯でグルグル巻きにしてもらい。化のう止めと痛み止めをもらって帰った。

台所には過ぎ落とした皮が残っていた。2ミリくらいだろうか。かなり厚い。グニグニと弾力がある。

今は痛み止めがきいているのかまったく問題ない。夕食もおいしかった。体調も頭もすっきりしている。血が抜けたからだろうか。

たまに献血するのはいいのではないかと思えてくる。