ビュッフェ形式の居酒屋でした。

昨夜はワークショップグループ展の打ち上げで新宿へ。これでようやく終わったような気になる。

飲みながら顔を見渡すと、会期前の悲壮な、本当に悲壮としかいいようのない表情から一転、目尻の下がった柔らかい顔になっていた。

参加者は、たかだか6枚くらいの写真を展示するのがこんなに大変だとは夢にも思ってもいなかっただろうね。会期が終わって緊張が解けほっとしたのか、その後風邪でバタバタ倒れたそうだ。本当におつかれさま。

新宿からは新江古田まで大江戸線で1本。電車に乗り込んでしばらくしたら「次は六本木」というアナウンスが車内に流れた。乗る方向を間違えたようだ。

大江戸線には何百回も乗っているのに間違えるなんて初めてだ。しかも六本木に来るまで気がつかないとは。酔っ払ったつもりはないのに。不思議だ。でも間違えたことに、さほど腹立たしい思いはしなかった。

階段を回りこんで向かいのホームへ。電車を待っていると長髪の男性がこちらに一直線に向かってきた。目を丸くして驚いた表情だ。

「ナベ?Mだけど」今度はこっちが驚いた。10年以上ぶりに会うカメラマンの友人だった。

フリーになりたての頃、そうだ、ちょうど結婚した年、彼のスタジオの一隅を事務所として借りていたことがある。新築3階建ての個人スタジオは駆け出しの僕にとって眩しいばかりだった。当時スタジオにはアシスタントだけで3人もいた。

ふたつ年上の彼は、才能もセンスも人望も、カメラマンに必要とされるものは全部備えていた。仕事も華麗で、言わば憧れだったのだ。

そういえば僕の初めての大きなキャンペーンポスター撮りの時、ライティングを紙に書いて教えてもらった。Mの身近にいることで吸収できたことは計り知れない。

その後色々あって彼はスタジオを閉じ、音信は途絶えていた。久しぶりに会った彼は「この10年、小説が3本書けるくらいの人生だった」と笑った。

別れるまでの数駅、彼は今までのことではなく、これからの話をしてくれた。数日前も妻とMの話をしていたばかりだった。ずっと会いたかったから元気そうで嬉しかった。

そのまま帰っていれば会えることはなかった。「今この反対方向の電車に乗って六本木で降りればMに会えるよ」と言われているような出来事だった。