野菜のがめ煮、小ロンポウ、高菜ごはん。

高円寺南口からすぐのところに写真専門のギャラリー「イルテンポ」がある。場所貸しではなく、企画展だけで運営しているギャラリーでオリジナルプリントを販売する日本でも数少ない専門ギャラリーだ。

そこでは内外の質の高い作家の展示を見ることができる。京橋の「ツァイトフォトサロン」が国内の現代写真家を扱っているのに対し、イルテンポはモノクロを中心にした力のある作家が多い。

北井一夫「1990年代北京」の展示があるというので撮影帰り寄ってみた。北井氏の作品は、高校時代に氏の代表作「村へ」をアサヒカメラでオンタイムで見ていた。また来月から受講する写真ワークショップの講師の一人でもあるため是非見ておきたかった。

コントラストの低い「ネムメ」のプリントに戸惑う。「きちんと黒が出ているのが正しいプリント」と思い込んでいると肩透かしを食う。

ところがずっと見ていると、柔らかいシャドーの出方に慣れてくる。むしろそのほうが見ていて疲れないことに気がつく。木の陰というのは、写真にするとやっかいなもので、コントラストが無用に付やすく、その場で見たような陽射しの柔らかさを出すのは難しい。

北井氏の写真には繰り返し木陰が出てきて、それが見事に描写されていた。

写真集も同時発売されており、比べてみたら若干本のほうがコントラストが高く、スッキリしている。作品を見ていると北井氏本人が現れ、話しを聞くことができた。7年間中国に通い詰め、年5回20日の撮影行を5年間続け今回の発表になったそうだ。

セレクトやプリントの話しなどを伺ったが、興味深かったのは、やはりカメラの話し。ずっと使っていたライカのズミルックス50ミリだと、どうも中国の黄砂が写るようで画面がザラザラする。それで初期の沈胴エルマーを使ってみたら、写りすぎずうまくいったとのことだった。

写真集を買うつもりでいたのだが、エイトバイテンのオリジナルプリント付特別版(3万5千円)が100部限定であったのでそっちにした。今年の自分への誕生祝いである。写真をなににするか迷ったあげく、写真集の表紙と同じものにすることにした。

「2B」に持ち帰りさっそく額装してみた。一枚の写真を飾ることで、印刷では味わうことのできない満足感を得ることができるのだ。